発表会出演によって得られること~大人の生徒さん編

 

大人になってから楽器を習い始めて、ソロの舞台に立つ、というのは、実はとても勇気の要ることです。

客席から見ていると、ライトが明るく、少し高い所に演奏者が伴奏者を従えて曲を弾いている、という、なんということのない構図のようですが、演奏者の立場からは、自分にまともにライトが当たり、全お客さんの視線が一気に集まる、ガチガチの緊張ものの構図です。なので、本番で、持っている実力の7~8割出せればまあ成功、と言っても過言ではありません。

  今わたしが担当している生徒さんで、50歳を過ぎてからバイオリンを始めた方がいらっしゃいます。その方には今回、わたしが担当になってから4回目の発表会で演奏していただきました。

  その方は、以前3回の発表会の中でも、その都度の技術の向上を示されましたが、やはり極度の緊張から、普段より音程が外れてしまい、身体が固くなって、右腕をのびのびと動かすことができないままに本番を終えていました。また不安から、暗譜での演奏も控えていました。

  今回はこの3点を大きな課題として、本番に臨んでいただきました。

 まず、暗譜に心配の少ない、短めの曲を選びました。音程をとる練習は、個人練習の時点で徹底することはもちろんの事、伴奏合わせに入ったら、とにかくピアノの音を良く聴いて、その音程に合わせること。右腕の動きと一緒に呼吸すること。これらをアドバイスして、趣味の習い事としては、厳しいかな?と思いつつも、出来る限りのレッスンをしました。
 本番当日リハーサル。
 

生徒さんは、いつもよりガッチガチになってしまい、普段には無い弓の震えが起きてしまいました。

本番はまずいかなぁ?とわたしは思いましたが、

 「リハーサルでうまくいかないほうが、本番は集中してうまく臨めるんです」とお声掛けをして、本番を待ちました。

  そして本番。

 とてもうまくいきました!!音程がきれいにきまり、全弓を使って演奏されていました。一か所繰り返しを忘れていましたが、全体的に実力以上の物を出されました!!

  大人になってから趣味として楽器を習う場合、目標設定はひとによって様々です。習っているという雰囲気さえ楽しめればいい、という方も多いでしょう。しかし、実力が付いた、と実感できた時の喜びは、比べようのないほど大きなものです。普段のレッスンでも実感することはできるのですが、やはり人前でどのくらい出来るのか?ということは実力査定の大きな目安になります。失礼を省みずに言うならば、身体の成長が止まり、肉体の衰えを感じ始めると、大抵の人は「自分に実力がつく」ということに対してあきらめの気持ちを持ってしまうことが多くはないでしょうか?
 普段のレッスンでも、出来る限り集中して、発表会ごとの実力向上を感じられれば、特に大人の生徒さんは、大きな喜びを得られると思います。自分にだってまだまだやれる!と自信もつくと思います。

 件の生徒さんも満面の笑みを浮かべ、「女房も、今回が一番良かったと言っていました」と大満足されていました。

  大きな勇気が要りますが、発表会で演奏して、勇気を出した分の喜びを生徒さんに感じて頂ければ、わたしも講師冥利に尽きます。